雛人形は、襞の芸術
仕事の上では、自分の手法の中で一貫する作業を施す、いわば一手で作り上げる十五人飾りを、世に送り出す雛づくりを目指してきています。
そのこだわりに、夫々の人形に命を吹き込むともいえる動態の襞付けがあります。座雛に起きる美妙な動きを感じさせるもの。特に立ち袴には、襞付けの手法に了(おわ)りはない。ときに、雛人形は、襞の芸術とも思っています。
平成8年史蹟足利学校野方丈へ両陛下の行幸啓の砌、五行思想の理になる創作人形「宇辰の鍾馗(朱赤怒髪巨眼開口の頭に炎上の陽光の朱赤の意匠)」の魂を入れる作業として、御進講申し上げた畳の席で一連の作業を了えると、御同行8名の方から一斉に拍手を賜る栄光に浴し生涯忘れることのない一瞬でした。
その後、茂木で開かれたインディジャパン300マイルレースでは、同種の作品が、記念品として栃木県知事から3年連続して、優勝者へ手渡される栄誉を授かっています。
(文:吉田 宏/下野手仕事会40周年記念誌『下野手仕事会四十年之軌跡』P80-81より)

