木の美しさを活かす指物
黒崎啓弘(くろさき けいひろ)さんは指物(さしもの)の技術・技法をもとに木工品を製作している「クロサキ工芸」の二代目である。2004年(平成16年)に「指物」の栃木県伝統工芸士に認定された。指物とは、釘などの接合材料を一切使わずに、木と木を組み合わせる技法(ほぞ組み)でつくられた家具・建具・調度品、または技法そのものを指物という。今回、指物の製品へのこだわりや、手仕事の魅力について話を伺った。
黒崎啓弘さん
木工の先達に学ぶ
もともと、親が指物をやっていたので世襲制というか、否応無しにこの道に入りました。20歳の頃に漠然と、あまり気乗りしない仕事を父のもとで始めました。本格的に木工の仕事をやっていこうと思ったきっかけは木工家・黒田辰秋先生の作品と出会ったことです。東京の近代工芸館で黒田先生の作品を見たのですが、もうその場から離れられませんでした。圧倒されました。どうしても黒田先生の教えを受けたいと思い伝統工芸館に問い合わせたところ黒田先生は既にお亡くなりになっていました。ただ先生の長男の黒田乾吉親方がご健在だと聞き、京都の乾吉氏と連絡がとれ、いろいろ教えを受けることがました。
親から子へと受け継いでできる家具
暮らしの中の家具など様々なスタイルの製品を制作していますが、杢目の美しさを活かし、使いやすさと機能性を追求し、親から子へと受け継いで使用できることをコンセプトに制作しています。樹齢100年から300年の国産の木を使っています。300年生きた木は使い方によって300年は持ちます。今でも20年以上たった家具や、80年前に先代が作った座卓を漆で塗り直して欲しいという家具の修理依頼が来ます。
また木彩(もくさい)にも力を入れています。木彩というのは様々な色の木を組み合わせることで、色彩豊かな模様を生み出す技法です。箱根では寄木と呼びますが、私どものところでは「木彩」と呼んでいます。
きっかけは色々な木を使っている中でも、銘木(希少な材木)の割合が多いと気づいたことです。以前は、ブビンガや黒檀などの木の端材は粗末にしていましたが、それらを寄木にしたらよいのではないかと思いつきました。家具はもちろん木彩のアクセサリーも制作しています。
製品のほとんどの仕上げに採用する手法は、辰秋先生、乾吉先生親子も行っていた技法「拭き漆」(摺り漆)がベースになっています。普通の漆塗りのやり方ではなく、木地に刷毛で漆を塗り、ヒノキの柔らかいヘラでしごいて押し込み拭きとります。それを何回も繰り返します。手間暇がかかりますが、何十年たっても光沢が失せないのです。
漆はなかなか気難しく、塗りあがるまでが手ごわいです。数回だけ塗っても良い色にはなりません。接着剤がついてしまっている個所にも漆は乗りません。ある程度になるまで、研いで何回も塗り重ねてを繰り返していく必要があります。いままで最高で50回塗り重ねたことがあります。それに健康に配慮するとなるとやはり荏油や漆などの自然由来のものが一番いいですね。
木彩筆箱
木を活かす活動
針葉樹は建築などに使うので利用機会が多いのですが、広葉樹は価値が低く「雑木」と呼ばれています。ですが雑木とは雑な木という意味ではないと思っています。マイナスのイメージを払拭したいので、うちでは雑木を「That’s Boc」という名前で呼び、木を活かすための活動をしています。
その一つとして小学校2年生から6年生までの児童たちに年に3回、木工教室を開いています。成長した子どもたちが今もこの活動を覚えていて、たまに私のところに顔を見せに来てくれます。
手から生まれるものの大切さ
機械ではできない事が手仕事の魅力です。手仕事会に入って、手から生まれるものの大切さに改めて気づかされました。ただ、担い手がだんだん少なくなってきているのが現状です。
でも今、辛抱していろいろ工夫していけば将来、「やっぱり手仕事の味わいがいい」という声が必ず出てくると思っています。綱引きではないですが、辛抱できるかどうかです。
次の世代の手本になるのは自分なので、手を抜かない事を大切にしています。きちんとした仕事を継続していかないと後がないわけです。
私のやっている仕事はストレートにはお客さんの目には見えないけれど、目に見えないところも丁寧に力を入れて仕事をする。それが一番大切なことだと思います。