下野手仕事会(藤田眞一会長)の今年初のイベントとなる展示即売会が、4月初め5日間にわたり日光田母沢御用邸で開催された。同御用邸での開催は毎年恒例となっており、今年で4回目。庭園の樹齢400年のシダレザクラが満開の時期と重なり、国内外の観光客が同邸を訪れ手仕事会の伝統工芸品に目をとめる光景が見られた。今回の展示即売会には会員35名のうち17名が参加した。来年創立50周年を迎える手仕事会のメンバーに伝統工芸の魅力、手仕事会のこれからについての思いを聞いた。
日光 田母沢御用邸
マクラメ編み 卯野サチ子さん
マクラメ編みは機械を使用せず多種多様な糸を交差させて結び模様を編み出す。アラビアのラクダの背につける房飾りから由来したとされている。
「糸を切ることから始まって結びまで、すべてが手作業。単調だけどいろいろな結びがあって、いろいろなかたちになっていくところにマクラメのおもしろさを感じます。1時間結び続けても1センチしか進まないこともあります。マクラメを知っている方は、その大変さをわかってくれる。初めてマクラメ編みを見る方は、作品が生まれてくる過程を不思議な目で見ている。まだまだマクラメを知らない方が多い。楽しみながら手作りの良さを知ってほしいという思いで教室を主宰し、後進の指導にも力をいれています」
「多くの人に手作業の良さを知ってもらうためにも、こうした手仕事会の活動は貴重だと思います。やっていることは会員それぞれ違いますが、目標としていることは変わらないし、ものづくりをしている人の考え方はすごく刺激になります」
木工ロクロ 鈴木正雪さん
ロクロを用いて茶器や酒器、花瓶などを作り出す。木の性質を生かして美しい木目を見せる。原木探しから製材、塗装などすべての工程を一人で行う。
「手仕事を引き継いでいく後継者を育ていくことが大切。昔からあるものだからと、そのことばかりに拘っていては時代のニーズに合わなくなり、どうしても衰退してしまう。若い人たちに加わってもらい、時代に合ったものを開発していってほしいという思いがあります」
「手仕事会にはいろいろな業種の方が入ってきていますが、その一方で需要がなくなって辞めていく方がいることがさびしい。いろいろな手仕事に目を向けて、会員の数も、業種も増えていくようになればと思います」
筒描藍染 若菜萌さん
筒描藍染は餅粉と糠を蒸して作った防染糊を円錐形の筒に入れ手で絞り出しながら模様を布に描いて藍染めする。江戸時代に隆盛を極めた技法を習得して伝統を継承している。展示即売会には、共に伝統の技法を守る娘の野乃花さんも参加。
「昔の文献などを参考にしながら筒描の技法を習得しましたが、やってもやっても先が見えないというか、理想にたどり着かない。技法が難しいところが筒描藍染の魅力かな。手仕事会は、違うジャンルの、すばらしい技術を持っている方にお会いできるので楽しみです。勉強にもなるし、一緒にコラボすることも。作品の木枠を木工ロクロの鈴木さんに依頼したり、日光下駄さんのところに筒描藍染の鼻緒を提供したり、いろいろコラボしています」
「娘もそうですが、新しい人に手仕事会に入ってきてほしい。伝統の手仕事が途絶えてしまわないように。手仕事会は楽しい会です。大御所の方もすごくフレンドリーで、優しく接してくださる。会に入って20年ほど経ちますが、これから先もずっと続いてほしい」
同 野乃花さん
野乃花さんは大学で金属工芸を学んだ。伝統的な筒描藍染の技法を引き継ぐとともに、染めを生かしながらアクセサリーなど筒描藍染の新たな領域にも挑戦している。
「2歳のころからハサミで切ったり、ものをつくったりするのが好きでした。大学生のときにデザイン画をたくさん描いていて、それを母に見せたら染めにしたらおもしろいんじゃないと言われた。小さいころから母の手伝いをして、身近に染め物を見てきて、一緒にやりたいという気持ちになりました」
「手仕事会は、いろいろな技術を持った方から刺激を受け、勉強にもなります。制作する上でのいろいろなアイデアになっています。筒描はこれからも勉強しながら続けていきたいし、染めとの関連でアクセサリーも作っています。アクセサリーというジャンルは若い人にとってもなじみがあり、そこから染めに興味を持っていただき筒描藍染を多くの人に知ってもらえるようになれば。若い人たちと一緒にやっていけたらなと思っています」
左から若菜萌さんと野乃花さん
手仕事会のこれから
今回の展示即売会は下野仕事会として今年初のイベントで、今後、8月にさくら市の栃木県指定文化財瀧澤家住宅・鐵竹堂(てっちくどう)で1カ月にわたり展示会を、9月には栃木県立博物館で恒例の「下野手仕事展」を開催する。
藤田眞一会長は「今年は新たに、さくら市でも展示会を開催することにしました。なるべく手仕事会の行事を増やして、会員同士のまとまりを深めていきたい。会員の中には県の伝統工芸品に指定されていない方がいますので、指定を受けられるよう働きかけていきながら、来年の創立50周年に向かっていきたい」と話している。
小砂焼き/下野手仕事会会長 藤田眞一さん
日光下駄 山本政史さん
印染(宮染め) 福井 規悦さん
線香 樋口喜巳さん