アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「とっておきの一冊」No.15

詩集『心袋』 山本十四尾 著

人は 生れ死すまで捨てきれない二十もの心袋を持っている


例えば五情の喜怒哀楽欲の心袋をふくらませたり しぼませたりして日々生きている この五つの心袋が平衡を失うとき 人にドラマが発生し時に死に至る そんな心袋が五感にも五欲にも五蘊にもあって 人は休まるときがない 逆に生き生きとしていける 心袋のひとつでも生彩低下したと自覚したとき わたしはこうして花柚の実をそばにおいて見つめることにしている ひとつひとつ重さを計ってみると押し並べて五十グラム(偏差は十グラムもない) 小さな実なのにその香は高く身に鬆がなく艶やかな光沢肌 本柚子や獅子柚子より数倍の上品さで雑さがない 自らの生命を自ら律しての結実なのだと知らされる


この花柚の生き様と照らしあわせている二十の心袋 今では死寸前の出来事の炎症も癒え回復したように どれも歪みなく円やかで形崩れもなく心拍も正常である 師走の季のなかで男は日向ぼこりしながら 地球に置いていく心袋 黄泉に持参する心袋 愛する人に届ける心袋 懸命に生きている人に預ける心袋 幸せ不幸せがまだわからない人に贈る心袋 そして決して残しておいてはいけない焼却すべき心袋などなどに分類している


数えてみると二十に区分けできることを知る 心袋二十 心袋の色合い二十 人生まだまだ先が視えない八秩半ばの日々



(プロローグ 「心袋」より)


書籍情報

・書籍名:心袋

・山本十四尾 著

・発行所:栃木文化社

・〒320-0012 栃木県宇都宮市山本1-7-17

・TEL:028-621-7006 Fax:028-621-7083

・価格:本体2,200円(税込)

・ISBN 978-4-901165-24-2

山本十四尾

1935年東京生まれ

1986年詩集『葬花』横浜詩人会賞

1988年詩集『風呂敷』茨城文学賞

1999年詩集『雷道』第17回現代詩人賞・茨城新聞社賞受賞 他13冊

古河文学館に詩集など収蔵・展示される

詩の勉強会「花話会」ボランティアで開いて21年目を迎える(2021年)

詩誌「衣」発行人 「彬彬」同人

古河市教育委員会「1ページの絵本」選考委員