アートセンターサカモト 
栃木文化社 BIOS編集室

「とっておきの一冊」No.27

『それでも生きるために-入院に至るまでの記録-』 野添透


アルコール依存症を経験し、回復への道を歩み、現在、依存症予防教育アドバイザーとして活動する53歳の著者が、波乱の半生を見つめ直し、その時々の葛藤や思いを綴った回想録である。


33歳でアルコール専門病棟に入院。アルコールを口にしなくなって20年。プロローグで「生きていれば色々なことがある。自分の生き方は自分で決めて良い。私の体験が今を苦しんでいる仲間に届けば良いな」と記す。

幼少期の環境、いじめ、逃避行動、非行、薬物……。父親に関する記述が印象的だ。
「16歳まで父親をかなり恨んでいた。どうやって殺してやろうかと思ったこともあるくらいだ」
父親の口癖は「学校の先生ごときに何がわかる」。学校では「お前の親父は変わっている」と嫌味を言われる。「家でも学校でも気が休まることなどなかった」と明かす。 この父親と、一家で移住した熊本・水俣で和解する。

「20年以上勤めた会社を退職してまで水俣に来たのには、私自身も大きな理由だった」「あのまま宇都宮に居座れば私は少年院に入ることになり『その先の人生』に悪影響を及ぼすことは当然のこと」 「それを知った私は、『殺してやりたい父親』から『尊敬する父親』に180度変わった」と記す。 中学卒業後の進路を話し合う3者面談。「学校に何一つ良い思い出もないし勉強する気もない」という息子に父親は「勉強が好きなやつはどんな環境下でもやるものだ。そうでもないなら別の道もある。『目学』『耳学』だ。その目で確かめ、その耳で聴き、その感覚で学べばいい。たくさんの人に会って色んな体験をするのも勉強だ」と諭す。 「この父親の言葉が人生を大きく好転させた」(ただ、そう感じたのは、この時ではない)

一家は水俣から宇都宮に戻ることに。著者は家族と離れ、放浪の旅が始まる。 水俣から鹿児島、そして沖縄に渡り牧場で働く。 牛の皮を貫通して血を吸う「刺し蠅」の防御策として雨合羽を着ての草刈り、長さ30センチを超えるムカデを捕まえて焼酎漬けにしたことなど、牧場での生活が生き生きと描かれる。



「この牧場との出会いが おいらの人生を変えた 牧場のみんなには迷惑かけたけど 『生きる』ことを教えてくれた 牛やイノシシや犬や猫 多くの動物と 大自然の中で」



放浪は、さらに続く。牧場仲間に誘われネパールへ。仲間が沖縄に帰った後も、単身ネパールに残る。ゲストハウスで客室の掃除やシーツ交換などを手伝うことを条件に、寝る場所と食事を確保し、観光客相手の土産販売の仕事などをしながら3カ月ほど、ネパールに滞在する。



「ネパール この体験も おいらの人生を変えた 日本にいる時とは まったく異なる価値観 年齢的に すんなり受け入れられたのか? 大人になる前でよかったよ」



このとき、著者は18歳という若さだった。出会いと偶然に身を任せた放浪の旅を終え、再び、宇都宮での生活が始まる。就職、父の死、独立、結婚、子供の誕生、生活の変化の中で、酒の問題が深刻化してくる。



「父の他界 予期せぬ独立 先行き不安 とにかく不安だった 何が不安なのかもわからない なんせ初めての経験なのだから 怖くて震えていた」




「増えるお酒の量 この先はどうなるのか また一人酒を飲みながらごまかし続ける」




「お酒で問題を起こす その一つ一つが大きな問題なのに 本人としては毎日のこと わかってる 自分がおかしいのわかってるんだよ だけど飲まないと不安で不安で 飲んでも不安で不安で もっと飲まないと不安で」



依存症医療に携わる専門家は、本書に寄せた一文の中で、「耐えがたい現実の中で、心が壊れてしまわないように必死に選びとった手段がアルコールであり、シンナーであり、刺激だった。その人がその時代を生き延びるために選ばざるを得なかった方法であり、ときに生存戦略でもある」と指摘する。

回復とは、ある日突然訪れる奇跡ではなく、「環境が変わり、出会いがあり、自分の物語(人生)を引き受け直していく小さな選択の積み重ね」である。支援の現場では「やめさせること」に目を向けがちだが、本当に必要なのは「なぜそれが必要だったのかを理解することではないか」と問いかける。

そして、「こんな自分でも、生き直せることを、野添さんは20年かけて体現してきた」と記す。

「第一章」はアルコール専門病棟に入院するところで終わる。著者は最終chapterで、依存症は病気であるがゆえに意思の問題ではない。しかし、「生きたいかどうか」は意思の問題である。「飲まない」という選択をした。その先に、思いも寄らなかった時間が待っていてくれた、と記す。

アルコール専門病棟退院後、どんな生活に変化していくのか。「第二章」で明かされる。


書籍情報

・書籍名:それでも生きるために-入院に至るまでの記録-

・著 者:野添 透

・発 行:有限会社アートセンターサカモト

・TEL : 028-621-7006

・ISBN 978-4-901165-44-0(電子書籍)

・価格(Kindle版):990円(税込み)

・価格(ペーパーバック版):1,650円(税込み)


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野添透

野添 透

1971年生まれ、栃木県在住。 代表/活動グループ「かずあるかたち」主宰。 防犯設備士・ASK認定依存症予防教育アドバイザー。 33歳の冬、アルコール依存症専門病棟に自ら入院。 以来、回復の当事者として生きてきた。 その経験から確信したことがある。人が壊れていくのは、意志の問題ではない。 孤立・環境・選択肢のなさ——構造の問題だと。 この視点は、防犯の仕事にそのまま重なった。 犯罪も依存も、起きてから対応するのではなく、 起きにくい状態を事前に整えることで防げる。 現在は防犯設備士として施工・提案を行いながら、 依存症予防の講演・相談活動、 地域と現場をつなぐ役割として活動している。